脳葬

今日は、夢の中で葬儀場に行きました。

海の魚たちのための葬儀場です。

 

そこは、人間の葬儀場とは似ても似つかないものでした。深い青の水で満たされた大きな水槽に、カサの直径は15メートル、触手の長さは30メートルはあろうかというくらい、大きな大きなクラゲが漂っているのです。

 

そのクラゲの、半透明の白いカサの内側には、人間の脳のような、ピンク色の器官がついていました。それはとても大きくて、おそらく直径は10メートルはありました。そして、ところどころ黄色いシミと、茶色の錆のようなものが付着していました。本来の姿は、きっとひと目見ただけでひれ伏してしまいたくなるくらい、美しくて神々しいクラゲでしょうに、脳のシミと錆のせいで、なんだか弱々しい印象を受けました。

 

そのクラゲの周りには、数え切れないくらいたくさんの銀色の小魚が、ぐるぐると泳ぎ回っていました。そして、カサと脳の隙間に入り込んで、茶色の錆に口をつけたり、頭を押し付けたりしていました。

 

そのあたりにいた魚が言うには、あの魚影は全部、死んでしまった魚の自我の残滓のようなもので、今までの魚生で見た海のことや、仲間の魚と過ごした大事な記憶を、全てあのクラゲの脳の中に流し込んでいるそうです。クラゲの中に流し込んだ記憶は、本魚の中からは消えてしまって、そうなれば自我の残滓も跡形もなく消えてしまうけれど、クラゲの栄養として役立つ、とのこと。

こうやって、一切の記憶をクラゲに託すことを、魚の世界では脳葬と呼ぶみたいです。

 

お魚はみんなあのクラゲのことが大好きで、クラゲの栄養になって消えていくのは、魚にとって、とても喜ばしいことなのだそうです。

クラゲは、今は、病気にかかって、体がしぼんで、錆のようなものができてしまったけれど、たくさん栄養をつければ、いつか元気になるかもしれないので、魚生の中で少しでも多く、質の高い記憶を作れるよう、みんな一生懸命色んなことをしているらしいです。

 

そのことを教えてくれた魚は、弟が死んでしまったので、クラゲに記憶を託して消えていくのを見に来たんだそうです。たくさんの銀色の魚影が、脳に頭を付けて、必死に体をくねらせているのを、眩しそうに見ていました。